子育てをしていると、自分を削って子どもに与えているような気持ちになることがあります。読み聞かせも同じです。「子どものため」と思うほど、つい頑張ってしまいます。
読み聞かせは、じつは孤独な作業です。効果はすぐに目に見えるものでも、数字で測れるものでもありません。疲れている夜に絵本を開くのが、しんどい日もあるでしょう。
でも、読み聞かせで与えているのは、あなただけではありません。読んでいるあなた自身も、癒やされ、育っています。東北大学の研究では、読み聞かせの時間が長いほど、親の育児ストレスが下がっていました。
この記事では、読み聞かせが読む大人自身にくれるものと、子どもとの関係に返ってくるものを、研究と、学校司書のわたしが家で読み聞かせを続けてきて感じたことから紹介します。毎晩の読み聞かせを頑張っているあなたに、届きますように。

読んでいるあなた自身に返ってくる8つのこと
読み聞かせは「子どもにしてあげること」と思われがちです。でも、読んでいる大人も、ちゃんと癒やされたり、育ったりしています。
- 癒やされる:① 育児ストレスが減る/② 声に出して読むと、気持ちが切り替わる/③ 読んでいる自分が、立て直される/④ 子どものころの自分に、出会い直せる
- 育つ:⑤ 子どもの質問で、自分の考えを見直せる/⑥ 言葉への感度が高まる/⑦ 口を大きく動かすから、声も表情も明るくなる/⑧ 表現力・伝える力が磨かれる
① 育児ストレスが減る
東北大学加齢医学研究所と山形県長井市の共同研究では、未就学の子どもがいる親子40組に、約2か月間、読み聞かせを毎日記録してもらいました。すると、読み聞かせの時間が長いほど、親の育児ストレスが下がっていました。とくに減っていたのは、子どもの行動について感じるストレスでした(福音館書店「とものま」)。
参加した家庭の読み聞かせは、平均で週に2〜3日、1回10〜20分ほどだったそうです(くもん出版note)。毎日きっちり読まなくても、ストレスは下がっていたのです。
研究を率いた川島隆太教授は、「子育てを楽にしたければスマホよりも本を」と、忙しくても読み聞かせの時間をつくることをすすめています(東洋経済オンライン)。
子育てをしていると、「もっとやってあげられたのでは」という罪悪感が積み重なりやすいものです。
読み聞かせをした日は、「今日は子どもと向き合えた」という、小さくて確かな実感が残ります。それは自己評価の高い低いではなく、親としての地に足のついた自信になっていきます。
毎日でなくてかまいません。「週に何回か、子どものそばで声を出して読んだ」という事実は、積み重なって親自身の支えになります。
② 声に出して読むと、気持ちが切り替わる
黙読と音読は、脳への影響がまったく異なります。
黙読では目から情報を読み取って脳に送るだけですが、音読では「目で読む・声に出す・耳で聴く・意味を理解する」という複数の作業が同時に行われます。脳トレで知られる川島隆太教授は、音読では大脳の70%以上の神経細胞が働くと話しています(産業能率大学 通信研修サイト)。
また、医師の森田豊さんは、音読すると気持ちを落ち着かせる神経伝達物質「セロトニン」が多く分泌されると紹介しています(日本経済新聞)。物語のリズムに乗って声を出す時間は、日常の雑念から一時的に離れ、気分転換や頭の切り替えにもなります。
「読み聞かせをした後、なんとなく頭がすっきりした気がする」——その感覚は、脳が広範囲に刺激を受けたことによるものかもしれません。
③ 読んでいる自分が、立て直される
子どものために読んでいる絵本に、読んでいる大人のほうが救われることがあります。
わたし自身が大人になってから読んで刺さったのは、『やっぱりおおかみ』佐々木マキ 作・絵(福音館書店・こどものとも傑作集)の最後の場面です。
この絵本は、たった一匹生き残ったおおかみが、うさぎの町でも、やぎの町でも、ぶたの町でも受け入れられない場面をくり返し描いていきます。そして最後まで受け入れられないまま、一匹おおかみのままで終わります。
あらすじだけ聞くと「かわいそう」と思われるかもしれません。でも、読んだ印象はまったく違います。自分が自分のままでいること。周りに合わせるのではなく、自分として生きていくという強い決意が、あの最後の場面からは伝わってきます。
ママというのは、正解がありません。他のママと自分を比べて、なんて自分はダメな親なんだろうと落ち込むこともあります。ママとしてだけでなく、わたし個人としても——性格的に、よくあります。
それでも「わたしはわたしとして生きていこう」と思わせてくれる。子どものために読んでいたはずの絵本が、読んでいるこちらを立て直してくれることがあるのです。

④ 子どものころの自分に、出会い直せる
「自分が子ども時代にやりたかったこと」「してほしかったこと」を、今から体験できる——読み聞かせには、そういう側面があります。
自分が親にしてもらえなかった体験を、今の子どもに届けているという感覚は、多くの親御さんが静かに感じていることです。子どもの反応を見ながら、かつての自分の気持ちに気づくこともあります。読み聞かせは、子どもを育てながら自分の子ども時代と向き合う時間になることもあるのです。
⑤ 子どもの質問で、自分の考えを見直せる
読み聞かせをしていると、子どもが予期しない質問をしてくることがあります。
「なんでこの人、意地悪したの?」「嘘ついたほうがよかったんじゃない?」「これって、かわいそうじゃないの?」
そのとき、大人は改めて「自分はどう思うか」を考えます。当たり前だと思っていた価値観を、子どもの問いかけを通じて見直す機会になる。これは、読み聞かせがもたらす、静かで深いメリットです。
答えを用意しなくていいのです。一緒に考えること自体が、親子にとって豊かな時間になります。
⑥ 言葉への感度が高まる
読み聞かせをしていると、普段の会話では使わないような言葉や表現に触れることになります。
「こんな言い回しがあったんだ」「この単語、どう説明しよう」という気づきが積み重なることで、親自身の語彙の引き出しも少しずつ豊かになっていきます。
また、「子どもに伝わるように言い換える」という作業は、思っている以上に言語化能力のトレーニングになります。なんとなくわかっているけど説明できなかった言葉を、自分のものにしていく機会が、読み聞かせには随所にあります。
⑦ 口を大きく動かすから、声も表情も明るくなる
読み聞かせは毎回、声に出して文章を読む練習です。慣れてくるにつれて、口の動きがなめらかになり、滑舌が改善したと感じる方もいます。
普段の会話では意識しない「声の張り」「抑揚」「間の取り方」なども、読み聞かせを続けるうちに自然と磨かれていきます。これは仕事でのプレゼンや接客、電話応対など、「声を使う場面」すべてに活きるスキルです。
読み聞かせは、毎晩10分ほど、口を大きく動かして声を出す時間でもあります。日本歯科医師会は、口の力を保つ体操として早口言葉をすすめていて、「口の動きをよくすることで、明瞭な発音につながり、表情が豊かになります」と説明しています。
口や頬を動かすことは、表情筋を使うことでもあります。声を出して読み終わったあと、顔がすっきりした気がする——そんな日があっても不思議ではありません。
⑧ 表現力・伝える力が磨かれる
読み聞かせをするとき、「どう読めば伝わるか」「どこで間を置けばドキドキするか」を自然と考えます。
「次のページにめくるタイミング」「声のトーンを落とす場面」「ゆっくり読むことで緊張感を出す場面」——これらはすべて、伝える力・表現力のトレーニングです。
営業の場でもプレゼンの場でも、「相手に届く話し方」は一朝一夕には身につきません。読み聞かせはその練習を、日常の中で自然にできる場でもあります。
どれも、子どもにしてあげているつもりの時間に、あなたがそっと受け取っているものです。
子どもとの関係に返ってくる5つのこと
もちろん、読み聞かせは親子の関係にも返ってきます。
① 親子の安全基地が育まれる
「どんなことがあっても、あの人のそばに行けば大丈夫」という感覚——これを心理学では「安全基地」と呼びます。
毎晩、あるいは気が向いたときに、親の声で物語が聞こえてくる。自分だけのためにそこにいてくれる時間がある。それはそれだけで、子どもにとって強い安心感の源になります。
安全基地がしっかり育った子どもは、外の世界に挑戦しやすくなるといわれます。失敗しても「戻れる場所がある」という感覚が、子どもを強くするのです。
② 子どもと気持ちが通じ合う
東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授らは、親子が読み聞かせをしているときの脳活動を計測しました。その結果、読み聞かせをしている親の脳で最も活発に動いていたのは「言語野」ではなく「コミュニケーション領域」だったことがわかりました。
親子の脳を同時に計測すると、コミュニケーションを担う部分が親子で同じような活動を示し、「共感関係(お互いの気持ちを理解し、思いやれる状態)」にありました(講談社えほん通信)。
親は読んでいるだけ、子どもは聞いているだけなのに、ふたりの心は同じように動いている。読み聞かせは、言葉で「大好きだよ」と言わなくても、気持ちが通じ合う時間なのです。
③ 子どもの本音が聞ける
読み聞かせの後、子どもが「ぽろっと」話すことがあります。
「ねえ、この子みたいなこと、学校でもある」
「これって、ずるいと思う?」
物語を通じて安心できる状態になったとき、日常では言えなかったことが出てくることがあります。読み聞かせの後のひとときは、子どもが本音を話しやすい時間になりやすいのです。
親から「どうだった?」と聞かれると構えてしまう子でも、物語を介すると自然と話し始めることがあります。
絵本のなかには、友だちとけんかをする場面が出てくることがあります。そういう本を読んだ日の夜は、「今日、〇〇くんとけんかした」と言ってくることがあります。ふと思い出すのだと思います。
友だちとけんかしてモヤモヤした気持ちを、何でもないときに親に話すのは、子どもにとってハードルが高いことなのかもしれません。話すタイミングをはかるのも、子どもには難しいことです。小学生でも、大人には気をつかっているものです。
でも、絵本のなかに同じような場面が出てくると、「自分はね」と話しやすくなるように感じます。子どもが自分から切り出さなくていいからです。話題は、絵本のほうが先に出してくれています。

④ 子どもの成長に気づける
読み聞かせを続けていると、子どもの変化に気づける場面がたくさんあります。
わたしがはっきり「成長したな」と感じたのは、子どもが登場人物に心を寄せるようになったときでした。
それまでは「次どうなるのかな」というワクワクドキドキだけだったのが、あるときから「一人になって心細いね」「助けてあげたい」といった言葉が出てくるようになりました。物語を外から眺めていた子が、物語のなかの誰かの側に立った瞬間です。こういう言葉が出てきたときは、心が育っているなと思います。
もうひとつは、単純に、長いお話が聞けるようになったこと。
乳幼児のころは、くり返しの多い単純な絵本を楽しんでいました。それが小学生になると、ひとつの昔話を最初から最後まで、集中して楽しめるようになります。しかも内容を理解している。初めて聞くお話も楽しめている。長い時間、聞いていられる。
こうして並べてみると、親が思っているより、子どもの成長はずっと早いのだと気づかされます。
⑤ 子どもの将来への投資になる
読み聞かせが子どもにもたらす効果は、語彙力・読解力・集中力・共感力・自己肯定感・睡眠の質など、多岐にわたることが研究で示されています。
アメリカ小児科学会も2014年から、赤ちゃんのころから読み聞かせをするよう保護者にすすめています(HealthyChildren.org)。特別な教材や習い事がなくても、親の声と一冊の本があれば始められる最良の子どもへの投資です。
子どもに育つ力については、こちらの記事にまとめています。


「うまく読めなくていい」は本当のこと
読み聞かせに対して、「上手に読まなければ」というプレッシャーを感じている方もいるかもしれません。
でも、川島隆太教授はこう言っています。「どんなに短い時間でも、どんなに下手でも、子どもにとって身近な大人が読み聞かせをしてあげてほしい」(講談社えほん通信)
子どもがいちばん集中して聞くのは、身近な大人の声です。プロのナレーターのように読めなくても、あなたの声が子どもには届いています。
とはいえ、研究の話を聞かされても、読んでいる最中の気まずさは消えないと思います。わたしもそうです。
読むスピード、セリフの言い回し。自分で読みながら「今のは不自然だったな」と思うことがあります。わたしがいちばん苦手なのは「わーい」というセリフです。日常で「わーい」なんて使わなくないですか。でも絵本のなかには出てくる。いつも棒読みになって、自分でも変だなと思っています。
ところが、子どもはまったく気にしていません。セリフの強弱はもちろん、途中で読みまちがえて言い直しても気にしない。読み終わったあとには、そんなことは覚えてもいません。「ここ間違えたね」なんて、言われたことがありません。
理由は、たぶんこうです。子どもは絵本のなかに入っているので、読み手のほうは不在なのです。
だから大丈夫。気合いを入れなくても、読んでいるだけで子どもは楽しめます。

読み聞かせを頑張っているあなたへ
読み聞かせは、誰かにほめられることも、成果がすぐに見えることもない作業です。今夜読んだからといって、明日なにかが変わるわけでもありません。
それでも、疲れた日にも絵本を開いているなら、あなたはもう十分に頑張っています。
読み聞かせの時間は、子どもに与えるだけの時間ではありません。あなたも、ちゃんと受け取っています。そう知ることで、今夜の1冊が少しだけ軽くなりますように。
しんどい日は、休んでかまいません。読める日に、読める分だけで大丈夫です。
よくある質問
まとめ|読み聞かせは、読むあなたにも返ってくる
読んでいるあなた自身に
- 育児ストレスが減る(読み聞かせの時間が長いほど、親のストレスが下がった)
- 声に出して読むと、気持ちが切り替わる
- 読んでいる自分が、立て直される
- 子どものころの自分に、出会い直せる
- 自分の考えを見直せる/言葉への感度・声・伝える力が育つ
子どもとの関係に
- 親子の安全基地が育まれる
- 子どもと気持ちが通じ合う
- 子どもの本音が聞ける
- 子どもの成長に気づける
- 子どもの将来への投資になる
読み聞かせは、子どもに「してあげる」ものではなく、一緒に育ちあう時間です。
完璧でなくていい。毎日でなくていい。まず一冊、今夜手に取ってみてください。
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