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「うちの子、友だちが泣いていても知らんぷり…」
「自分の気持ちをうまく伝えられなくて、すぐかんしゃくを起こしてしまう」
そんな悩み、感じたことがありませんか?
学校で働いていると、こういう子にたくさん出会います。そして、たいていの場合、その子は「やさしくない子」ではありません。ただ、目の前で起きていることが、自分の中でうまく形にならないだけなのです。
共感力や、感情を言葉にする力は、生まれつき決まっているものではありません。日々の経験の中で、少しずつ育てていくことができます。
そして、そのための最も自然な方法のひとつが——本です。親に読んでもらう読み聞かせでも、自分で読む読書でも、共感力は育ちます。
この記事は、小学生(1〜6年生)のお子さんがいるご家庭に向けて書いています。読み聞かせが中心の低学年〜中学年のご家庭にも、一人読みが始まった中学年〜高学年のご家庭にも読んでいただけるように、本と共感力の関係から、読み聞かせのときにできること、自分で読むようになってからできること、学年に合った本までを、学校司書として子どもたちの読む姿を見てきた立場からまとめました。

共感力は「やさしさ」ではありません
共感力というと、「相手の気持ちに寄り添える力」「思いやりのある性格」というイメージがありますね。
でも、学校で子どもたちを見ていると、少し違うことに気づきます。共感力は性格ではなく、いくつかの段階でできている「技術」に近いものだということです。
共感には3つの段階がある
ひとことで「共感」といっても、実際には次の3つの段階を通っています。
| 段階 | やっていること | つまずくとどうなる |
|---|---|---|
| ① 気づく | 相手の表情や声の変化に目が向く | 友だちが泣いていても視界に入らない |
| ② わかる | 「たぶん悔しいんだろうな」と見当をつける | 「なんか変」で止まり、それ以上進まない |
| ③ どうするか決める | 声をかける・そっとしておくを選ぶ | 気づいているのに動けない・的外れな行動をとる |
「うちの子は共感力が低いのかも」と心配になるとき、どの段階でつまずいているのかを見てみると、対応がまったく変わってきます。
そして、本が強く効くのは、①と②の段階です。③の「どう行動するか」は、経験と性格と、その日の機嫌にも左右されます。そこまで一気に育てようとすると、親のほうが苦しくなってしまいます。
「やさしい子」なのに友だちとぶつかる理由
図書室にいると、よく見かける場面があります。
誰かが落とした本を、いちばんに拾ってあげる子。当番でもないのに返却の手伝いをしてくれる子。とてもやさしい子です。ところがその同じ子が、友だちとの間で「そんなつもりじゃなかったのに」というトラブルを起こすことがあります。
話を聞いてみると、たいてい②の段階でつまずいています。相手が黙り込んだことには気づいている。でも、それが「怒っている」のか「恥ずかしい」のか「傷ついた」のかが読み取れず、とりあえず自分が良かれと思う行動をしてしまうのです。
つまり、やさしさが足りないのではなく、相手の気持ちを言い当てるための「ことば」が足りない。ここが共感力の核心です。
共感の入り口は「感情のことば」
「悲しい」「悔しい」「不安」「もどかしい」「うれしい」「誇らしい」……
こうした感情を表すことばを持っていないと、自分の気持ちも、相手の気持ちも、正確につかむことができません。
感情語彙が少ない子は、複雑な気持ちをすべて「なんかイヤ」「ムカつく」という大ざっぱなことばで片づけてしまいがちです。すると、自分の本当の気持ちがわからないまま、もやもやだけが積み重なっていきます。
そして、自分の中で名前がついていない感情は、他人の中にも見つけられません。「悔しい」を知らない子は、友だちの悔しさにも気づけないのです。
つまり、感情語彙の豊かさが、共感力の土台になっています。
ふだんの会話の中で気持ちのことばをどう渡していくかは、「嫌だ」しか言わない子が気持ちを話し出す|感情語彙を育てる親の声かけにまとめています。この記事とあわせて読んでいただくと、本のある時間とない時間の両方がつながります。
なぜ現実の場面だけでは共感力が育ちにくいのか

「実際に友だちと関わる中で学べばいい」と思われるかもしれません。もちろんそれも大切です。でも、現実の場面には大きな制約があります。
当事者になると、相手が見えなくなる
けんかの真っ最中に、相手の気持ちを冷静に考えられる子どもはいません。大人でも難しいことです。
自分が当事者のとき、頭の中は自分の感情でいっぱいになります。悔しい、恥ずかしい、腹が立つ。その勢いに押されて、相手の顔を見る余裕はどこにもありません。
ところが物語を読んでいるとき、子どもは「当事者ではないのに、当事者の気持ちがわかる席」に座っています。これは日常生活では絶対に手に入らない立ち位置です。
| 現実の場面 | 物語の場面 | |
|---|---|---|
| 立ち位置 | 当事者 | 安全な傍観者 |
| 気持ちの余裕 | 自分の感情でいっぱい | 落ち着いて眺められる |
| 相手の内面 | 見えない・推測するしかない | 文と絵で見せてもらえる |
| 時間 | 一瞬で過ぎる | 止められる・戻れる |
| 失敗 | 関係にひびが入る | 何度やり直してもいい |
この表の下2行が、とくに大きいところです。本はページをめくる手を止められますし、何度でも読み返せます。「あのとき、この子はどんな気持ちだったんだろう」と、あとから考え直すこともできる。現実の人間関係には、この巻き戻しがありません。
「かわいそうだと思いなさい」は共感を止めてしまう
もうひとつ、意外と多いのがこれです。
子どもが誰かを傷つけたとき、つい「相手の気持ちを考えなさい」「かわいそうだと思わないの?」と言ってしまう。気持ちはとてもよくわかります。
でも、指示された感情は、子どもの中で本物になりません。「そう思わないといけないらしい」という知識が増えるだけです。そして次からは、本当に感じていなくても「かわいそうだと思いました」と言えるようになってしまいます。
共感は、教えられて身につくものではなく、感じる経験を重ねた結果として、あとからついてくるものです。だからこそ、叱る場面ではなく、静かで安全な場面で積み重ねる必要があります。
そもそも「気持ちを言葉にできない」状態そのものについては、子どもが「気持ちをことばにできない」のはなぜ?でくわしく書いています。かんしゃくが多いお子さんは、そちらも参考になると思います。
本が共感力を育てる5つの理由

①〜③は読み聞かせの場面を例にしていますが、自分で読む読書でも同じことが起きています。育ち方のちがいは、このあとの「読み聞かせでも、自分で読む読書でも共感力は育ちます」でくわしくお伝えします。
① 本の中に「感情のお手本」がある
絵本の登場人物は、さまざまな感情を体験します。
転んで泣く。友だちとケンカして悲しくなる。はじめてのことに緊張する。がんばってうまくいって、誇らしく思う。
そうした場面を親と一緒に読み進めながら、「この子、今どんな気持ちかな?」「悲しいのかな? それとも、悔しいのかな?」と言葉にしていくうちに、子どもは感情のことばを自分のものとして身につけていきます。
絵本は、感情語彙を学ぶための「お手本集」ともいえます。教科書のように堅くなく、物語の流れの中で自然に心に入ってくるのが、読み聞かせのすごいところです。
しかも絵本には、絵という強い助けがあります。文章では「かなしくなりました」としか書かれていなくても、絵の中の肩の落ち方、目線の低さ、背景の色から、子どもは言葉より先に気持ちを受け取ります。文字が読めない子でも共感できるのは、絵がそれを担っているからです。
一人で読む児童書になると、絵の助けは少なくなります。そのかわり、気持ちがことばそのもので書かれています。「胸がしめつけられるような」「じわじわと広がる」「ほっと力が抜ける」——こうした表現に何度も出会ううちに、気持ちを表すことばの引き出しが増えていきます。絵本では絵が運んでいた気持ちを、児童書ではことばが運びます。
② 「安全な場所」で感情を体験できる
本のもうひとつの大切な働きは、「安全に感情を体験できる場をつくる」ことです。
本の中の出来事は、リアルな痛みや危険を伴いません。主人公がけんかをした場面を読んでも、子どもが実際に傷つくわけではない。でも、その場面で心がぎゅっとなる感覚は、本物です。
こうして本を通じて「悲しい」「怖い」「悔しい」「やりきった!」という感情を安全に経験することで、子どもは感情そのものに慣れていきます。
感情に慣れているということは、自分が怖いと感じたとき、悲しいと感じたとき、それを「怖さ」「悲しみ」と認識できるということです。認識できてはじめて、相手の「怖さ」「悲しみ」にも気づけるようになります。
これが共感の第一歩です。
読み聞かせのとき、この「安全さ」を支えているのは、物語そのものよりも、隣にいる大人の存在だと感じます。こわい場面でも、親の声が続いているかぎり大丈夫。その安心があるから、子どもは思いきり感情の中に入っていけます。安心と読み聞かせの関係は、読み聞かせでメンタルが安定する。絵本で愛情を伝えてみよう。にくわしく書きました。
一人で読むときは、いつでも本を閉じられること、自分のペースで読み進められることが、その安心のかわりになります。こわい場面で手が止まるのも、ちゃんと感じている証拠です。
③ 親子で「気持ちを語る時間」が生まれる
読み聞かせは、親子が同じ場面を見て、同じ感情の動きを体験する時間でもあります。
「このシーン、なんかじんとするね」とお母さんが言う。「うん、かわいそうだった」と子どもが答える。
このやり取りの中で、子どもは大切なことを学んでいます。「感情について話してもいいんだ」ということを。
感情を表に出すことを恥ずかしいと感じている子、気持ちをうまく言葉にできない子にとって、読み聞かせはとても安心できる練習の場になります。
大事なのは順番です。親が先に自分の気持ちを言葉にして見せると、子どもは「自分も言っていい」と感じられるようになります。逆に、親が黙ったまま「どう思った?」とだけ聞くと、テストのように感じてしまう子がいます。
本の話題なら、自分のことを直接話さずにすみます。「おおかみくん、さびしそうだったね」は、「わたしもさびしい」と言うよりずっと言いやすい。本が照れくささを引き受けてくれるのです。
④ 「困らせる側」の気持ちまで見える

これは、物語にしかできないことだと思っています。
現実の世界では、自分に意地悪をした相手の内側は、絶対に見えません。「なんであんなことをするんだろう」と思ったまま終わります。
ところが物語では、意地悪をした側にもちゃんと事情があることを、読者だけが知ることができます。さびしかったから。うらやましかったから。本当は仲間に入りたかったから。
この経験を重ねた子は、現実でも「あの子は今、何か困っているのかもしれない」と考える余地を持てるようになります。すぐには行動に出ませんが、敵をつくらずにすむ考え方が身についていきます。
だからこそ、悪役が悪いまま終わる話より、悪役に理由がある話を選びたいのです。この記事の後半で紹介する『ともだちや』や『きみなんかだいきらいさ』は、まさにそういう絵本です。高学年なら、からかった側と黙って見ていた側の気持ちまで描いた児童書『百まいのドレス』があります。
⑤ 「自分とはちがう感じ方」に出会える
共感というと「相手の気持ちがわかること」と思われがちですが、もう少し正確に言うと、「相手は自分とちがう感じ方をするかもしれない、と思えること」です。
自分ならうれしい場面なのに、この子は泣いている。自分なら怒る場面なのに、この子は笑っている。物語の中でそういう「ずれ」に出会うたびに、子どもは人の心は一つではないことを知っていきます。
この「ずれ」に出会わないまま育つと、「自分がうれしいことは相手もうれしいはず」という前提で人と関わることになります。よかれと思ってしたことで相手を怒らせてしまう子の多くは、ここでつまずいています。
後半で紹介する児童書『ワンダー』は、同じ出来事を章ごとにちがう人物の目から語る物語で、この「ずれ」そのものを体験できる一冊です。
いろいろな立場の人の内側を知るという意味では、読書が視野を広げる話ともつながっています。もう少し大きなお子さんには、読書で視野が広がる——多様性を理解する力の育て方もどうぞ。
また、「もし自分がこの子だったら」と想像する働きそのものは、想像力の話でもあります。こちらは読み聞かせで子どもの想像力と創造性を育てる方法にまとめました。
読み聞かせでも、自分で読む読書でも共感力は育ちます
「読み聞かせは小さい子のためのもの」「自分で読めるようになったら、あとは読書にまかせればいい」——そう思われることがよくあります。でも共感力について言えば、読み聞かせでも、自分で読む読書でも育ちます。ちがうのは育ち方です。
どちらも、物語の中で自分ではない誰かの心の内側を見せてもらう体験であることは同じです。そのうえで、気持ちの受け取り方が次のように変わります。
| 読み聞かせ | 自分で読む読書 | |
|---|---|---|
| 気持ちの手がかり | 絵と、読んでくれる人の声 | 文章のことばだけ |
| 受け取れる物語 | 自分で読めるより少し難しい話も受け取れる | 自分で読める範囲。そのかわり自分のペースで立ち止まれる |
| 安心のもと | 隣にいる大人 | いつでも閉じられる・読み返せること |
| 育ちやすいところ | 気持ちに気づく・気持ちに名前がつく | ことばから気持ちを想像する・複雑な気持ちを追う |
| 親の関わり | 一緒に味わう・親が先に気持ちを言う | 聞きすぎない・ときどきひとこと |
読み聞かせは「気持ちに気づく」土台をつくる
読み聞かせのいちばんの強みは、絵と声が気持ちを運んでくれることです。文字を追わなくていいので、子どもは物語の中の気持ちだけに集中できます。
もうひとつ、自分で読める本より少し難しい物語も、読んでもらえば受け取れます。これは学年が上がっても変わらない、読み聞かせだけの価値です。前半でお伝えした共感の3段階でいえば、①気づく・②わかるの土台をつくるのが読み聞かせです。
自分で読む読書は「ことばから気持ちを想像する」力を深める
一人で読むようになると、絵の助けは少なくなります。そのぶん子どもは、文章だけを手がかりに、場面や気持ちを思い浮かべるようになります。
「なぜこの子はこうしたんだろう」「自分だったらどうするだろう」を、誰にも急かされずに考えられるのも一人読みのよさです。途中で本を閉じて考えこむのも、前のページに戻るのも自由。読み聞かせでは流れていってしまう場面に、自分で立ち止まれます。
中学年〜高学年になると、友だち関係も複雑になってきます。からかう側、見ているだけの側、言えなかった側。一人で読む物語は、そういう答えの出ない気持ちと、ひとりで静かに向き合える場所になります。
どちらかではなく、両方あるのがいちばん
一人で読めるようになったからといって、読み聞かせを卒業させる必要はありません。自分で読むときは文字を追うことに力を使うので、気持ちを味わう余裕はどうしても減ります。
読んでもらう時間と、自分で読む時間。両方がそろっていると、共感力は「気づく」と「わかる」の両方から育っていきます。読み聞かせから一人読みへの移り方は、小学生が「自分から本を読む子」になる関わり方|読み聞かせから一人読みへにまとめています。
共感力のほかに本で育つ力の全体像は、読み聞かせなら読み聞かせで育つ11の力|小学生にこそ続けてほしい理由、自分で読む読書なら読書で育つ10の力|小学生が本を読むと、勉強以外の何が伸びるのかにまとめました。
声に出さなくても、子どもは共感しています

読み聞かせのあとに何も言わない子を見て、「うちの子には響いていないのかな」と感じたことはありませんか。
図書室で読み聞かせをしていると、子どもたちの反応は本当にさまざまです。声を上げる子、隣の子と顔を見合わせる子、まったく動かない子。でも、いちばん深く入り込んでいる子ほど、声を出しません。息を止めて、まばたきもせずにこちらを見ています。
共感は、言葉より先に体に出ます。次のようなサインが見えたら、その子はしっかり感じています。
| 子どもの様子 | 起きていること |
|---|---|
| 息をのむ・体が固まる | 登場人物と一緒に緊張している |
| ページをめくらせない | その場面から離れたくない |
| 先のページをのぞこうとする | 結末が心配でたまらない |
| ぎゅっと寄ってくる | こわい・かなしいを親と分け合っている |
| 同じ本を何度もせがむ | その感情をもう一度味わいたい |
| 読み終わって黙り込む | 心の中で余韻が続いている |
とくに誤解されやすいのが最後の「黙り込む」です。反応がないと親は不安になりますが、黙っているのは、感じていないからではなく、感じたものがまだ言葉になっていないから。ここで急かしてしまうと、せっかく動いていた心が止まってしまいます。
そして、同じ本を何度もせがまれるのも、共感が働いているサインです。大人は「もう読んだのに」と思ってしまいますが、子どもは物語を確認しているのではなく、あの気持ちにもう一度なりたいのです。何度でも付き合ってあげてください。
一人で読むようになった子も同じです。読み終わっても「面白かった」のひとことだけ、ということはよくあります。でも、何度も読み返す本があるなら、それは気持ちが動いたしるしです。感想が出てこなくても、心の中には静かに積み重なっています。
共感力を育てる読み聞かせのポイント6つ

ここからは、実際の読み聞かせの中でできることをお伝えします。むずかしい技術は必要ありません。むしろ「やりすぎない」ことのほうが大事です。
① 読み終わったら、まず黙る
読み聞かせが終わったら、すぐに感想を求めたり、質問したりするのはちょっと待ってください。
物語に没頭した後には、しばらく余韻に浸る時間が大切です。その静かな数秒のあいだに、子どもの心の中では感情がいちばん大きく動いています。
ここで「どうだった?」と声をかけると、動いていたものが止まって、頭が「答えを探すモード」に切り替わってしまいます。本を閉じて、ひと呼吸。子どもが何か話したそうにしていたら、そのときに耳を傾けてあげましょう。
会話が広がらなくても、それで十分です。余韻をそっと守ってあげることが、次に本を開くときの心の準備になります。
② 問いかけは、1冊に1回でいい
「この子、今どんな気持ちかな?」は、とてもいい問いかけです。でも、ページごとに聞いてしまうと、読み聞かせがクイズ大会に変わります。
実際、聞かれ続けた子は物語に入れなくなります。次に何を聞かれるかを気にしながら読むことになるからです。図書室でも、質問の多い読み聞かせほど、子どもの表情が固くなっていくのがよくわかります。
問いかけるなら、いちばん心が動いた場面で1回だけ。あとは黙って読む。それで十分に届きます。
③ 決めつけず、2〜3個並べて渡す
子どもが「悲しいのかな」「怒ってる?」とつぶやいたら、そこから少し広げてあげましょう。
「そうかもしれないね。もしかしたら、悔しいっていう気持ちもあるかな」
ポイントは、ひとつに決めず、2〜3個並べて子どもに選ばせることです。「これは悔しいんだよ」と言い切ってしまうと、子どもは考えるのをやめて覚えるモードに入ります。並べて渡せば、子どもは自分で選びます。この「自分で選んだ」という感覚が、ことばを自分のものにします。
そして、子どもが「ちがう」と言ったら大成功です。「ちがう」と言えるのは、自分の中にはっきりした感覚がある証拠だからです。
④ 親が自分の気持ちを先に言う
子どもに聞く前に、まず親のほうが言ってしまうのがいちばん早い方法です。
「お母さん、ここ読んでてちょっと胸がぎゅっとなった」
「この子ががんばったところ、うれしかったなあ」
これは質問ではないので、子どもは答えなくてもかまいません。でも、「大人でも気持ちを口に出していいんだ」というお手本を見せていることになります。
低学年のうちはとくに、聞かれるより見せられるほうがよく入ります。何日か続けていると、ある日ふいに子どものほうから「ぼくはここが悲しかった」と言い出します。
⑤ 感情のことばの「幅」を見せる
親御さん自身が、豊かな感情語彙を使うことも大切です。
| いつも使うことば | 並べて渡したいことば |
|---|---|
| 悲しい | 切ない/さびしい/がっかりした/やるせない |
| うれしい | 誇らしい/ほっとした/じんとする/うきうきする |
| 怒っている | 悔しい/腹が立つ/がまんできない/許せない |
| こわい | 不安/心配/どきどきする/落ち着かない |
| いや | 気まずい/恥ずかしい/気が進まない/もやもやする |
難しい言葉を教え込む必要はありません。読み聞かせの中で親御さんが自然に使っていれば、子どもはそのことばを勝手に吸収します。「今日から意識して使おう」と思わなくても、1冊に1つ増えれば十分です。
⑥ 「正解」を求めない
「この子は今、悔しいと思っているんだよ」と正解を教えることよりも、「どんな気持ちだと思う?」と一緒に考えるほうが大切です。
感情の読み取りに「絶対の正解」はありません。自由に想像し、言葉にする経験そのものが、共感力の土台をつくります。
読んだあとに親が結論を言ってしまうと、子どもは考えるのをやめます。この感覚は道徳の話とも共通していて、読み聞かせは「道徳の教科書」にくわしく書きました。
自分で読むようになったら|聞きすぎず、ひとことだけ
一人読みが始まると、子どもが何を読んで、どう感じているのか、親からは見えにくくなります。気になって「どんな話だった?」と聞きたくなりますが、読むたびに感想を聞くと、読書がテストになってしまいます。
私自身、感想を聞きすぎて、子どもに「読んだら説明しなくちゃいけないんでしょ」と言われたことがあります。本は楽しむのがいちばんです。一人読みの時期にできることは、次の3つくらいで十分です。
- 話したそうなときだけ聞く——子どものほうから話し始めたら、「へえ、それで?」と受け取るだけにします
- 「そうだよ」で終われる聞き方にする——「その子、最後は友だちになれたの?」のように、ひとことで答えられる聞き方なら負担になりません
- 親も同じ本を読んで、自分の感想を言う——「お母さんはこの場面、切なかったなあ」と言うだけで、気持ちをことばにするお手本になります。児童書は大人が読んでもおもしろい本がたくさんあります
読み聞かせのところでお伝えした「親が先に気持ちを言う」「正解を求めない」は、一人読みになってもそのまま使えます。読んだあとに何も残っていないように見えて心配なときは、本は読むのに「忘れた」と言う子|学校司書が見ている読書のサインと聞き方のコツに、読んでいる子のサインをまとめています。
つい、やってしまいがちな逆効果の関わり方
どれも、私自身がやってしまったことがあるものばかりです。よかれと思ってした関わりが、かえって子どもの心を閉じさせてしまうことがあります。
| つい、やってしまうこと | 子どもに起きること | こうしてみる |
|---|---|---|
| 読み終わってすぐ「どうだった?」 | 余韻が切れて、答え探しになる | 本を閉じてひと呼吸おく |
| ページごとに気持ちを質問する | 物語に入れずクイズになる | 問いかけは1冊に1回 |
| 「かわいそうだと思わない?」 | 感じるより、そう言うことを覚える | 親が自分の感想だけ言う |
| 子どもの答えを「ちがうよ」と訂正する | 次から言わなくなる | 「そう思ったんだね」で受け取る |
| 教訓をまとめて締めくくる | 考えるのをやめる | まとめずに終わる |
| 感想文のように話させる | 読み聞かせが宿題になる | ひとことで終わってよしとする |
| 自分で読んだ本の感想を毎回聞く | 読書がテストになる | 話したそうなときだけ聞く |
とくに4行目は要注意です。子どもが「この子、うれしそう」と言ったとき、大人から見て的外れでも、その読み取りは否定しないでください。感じ方に正解はないというメッセージが、そのまま「あなたの感じ方は大事にされる」という体験になります。
学年別・共感力の育ち方と関わり方

同じ本を読んでも、学年によって受け取るものは変わります。あくまで目安ですが、関わり方の参考にしてください。
| この時期の姿 | 関わり方のコツ | |
|---|---|---|
| 低学年 (1〜2年) | 登場人物と自分の区別があいまい。こわい場面では本気でこわがる | 気持ちを言い当てさせず、親が言葉にして渡す。読み終わりに抱きしめるだけでも十分 |
| 中学年 (3〜4年) | 「自分ならこうする」と言い始める。友だち関係の悩みが物語と重なる。一人読みも始まる | 子どもの意見に賛成も反対もせず、「そう思ったんだ」と受け取る。悪役の事情に目が向き始める。自分で読んだ本は聞きすぎない |
| 高学年 (5〜6年) | 照れが出て感想を言わなくなる。でも内側ではよく読んでいる。自分で読む本では、立場のちがう人物の気持ちまで追えるようになる | 感想を求めない。親が独り言のように感想を言うだけにする。絵本を「幼い」と言われたら深いテーマの本に切り替える。後半で紹介する児童書も手の届くところに |
高学年になって「もう絵本はいいよ」と言われても、読み聞かせをやめる必要はありません。照れているだけで、聞いている子はとても多いです。そのまま読み続けて大丈夫。
やめどきの判断については、読み聞かせはいつまで続ける?目安は小3・やめどきのサインにまとめています。
読み聞かせにおすすめの絵本7冊|共感力と感情のことばを育てる
ここからは、実際に子どもたちの反応がよかった7冊を紹介します。選ぶときに大事にしたのは、教訓を語らないこと、そして登場人物の気持ちが一直線ではないことです。「いい子でいましょう」と言ってくる絵本より、気持ちが揺れる絵本のほうが、子どもの心はよく動きます。
『ともだちほしいな おおかみくん』(佐倉智子 作・井本蓉子 絵/岩崎書店)
内容
友だちがほしいおおかみくんが、勇気を出して声をかけようとするお話。緊張・不安・期待・うれしさが丁寧に描かれています。
感情語彙に効く理由
「仲良くなりたい」という気持ちの中には、期待と、怖さと、恥ずかしさが同時に入っています。ひとつの場面に複数の感情が重なっているので、「おおかみくん、どんな気持ちだったかな?」という問いかけに、子どもがいくつも答えを出せる一冊です。
こんなときにおすすめ/新学期やクラス替えのあと、「友だちができない」と言い出したとき。
読み方のワンポイント/おおかみくんが声をかけようとして、やめてしまう場面でひと呼吸おいてみてください。読まずに間を空けるだけで、子どもはそこに自分の経験を重ねます。
『はじめてのおつかい』(筒井頼子 作・林明子 絵/福音館書店)
内容
5歳のみいちゃんがはじめて一人でおつかいに行くお話。どきどき・はらはら・がんばる気持ちが、繊細なイラストで描かれています。
感情語彙に効く理由
主人公の緊張や達成感が非常に丁寧に表現されており、「みいちゃん、緊張してるね」「うまくできてよかったね、ほっとした?」といった言葉かけが自然にできる一冊です。
そして、この本の本当のすごさは絵の中に子どもの気持ちが全部書いてあることです。坂道での前かがみの姿勢、握りしめた手、転んだあとの膝。文章を読まなくても、絵だけで気持ちを追える。低学年の子でも、絵を指さしながら「今こわいんだよ」と説明してくれます。
こんなときにおすすめ/はじめてのことに尻込みしているとき。習い事や係活動を「やりたくない」と言うとき。
読み方のワンポイント/読み終わったあとに「みいちゃん、どこがいちばんこわかったと思う?」ではなく、「どのページのみいちゃんが好き?」と聞いてみてください。気持ちを言葉にするより、指をさすほうが子どもには簡単です。
『わたしとあそんで』(マリー・ホール・エッツ 文・絵/与田凖一 訳/福音館書店)
内容
野原に遊びに出た女の子が、バッタやカエル、カメたちに「あそびましょ」と声をかけますが、近づくたびにみんな逃げていってしまいます。だれも遊んでくれないので、じっと静かに座っていると……動物たちのほうから、少しずつ近づいてきます。
感情語彙に効く理由
「あそびたいのに、うまくいかない」というさびしさから、待つ時間の静けさ、そして最後のうれしさへ——大きな事件がなくても、気持ちが少しずつ変わっていく様子を味わえる絵本です。言葉の少ないラストシーンの女の子の表情から、「今、どんな気持ちだと思う?」という会話が自然に生まれます。
それに加えて、この本には相手にも都合があるという発見があります。動物たちは女の子が嫌いだったのではなく、追いかけられるのが怖かっただけ。自分の「あそびたい」が、相手には別の意味に届いていた——これは、共感の入り口そのものです。
こんなときにおすすめ/ぐいぐい行きすぎて友だちとうまくいかない子。逆に、誘えずに待ってしまう子にも。
読み方のワンポイント/女の子が静かに座っている場面は、ゆっくり、小さな声で読んでください。読み方そのもので、静けさが伝わります。
『ともだちや』(内田麟太郎 作・降矢なな 絵/偕成社)
内容
「えー、ともだちやです。ともだちはいりませんか」。のぼりを立てたキツネが、1時間100円で友だちになる商売を始めます。お金を払って「友だち」になろうとするオオカミとのやりとりの先に、「本物の友だち」のかたちが見えてくるお話です。
感情語彙に効く理由
「さびしい」という気持ちと「本当はつながりたい」という気持ちが、キツネとオオカミ両方の視点から描かれているため、共感の引き出しが一気に広がります。「友だちってお金で買えるのかな?」という問いをめぐって、親子の会話も生まれやすい一冊。小学校の道徳の教科書にも採用されているロングセラーです。
こんなときにおすすめ/中学年で、友だち関係が複雑になってきたころ。「本当の友だちってなに?」と考え始めた子に。
読み方のワンポイント/キツネの威勢のいい売り声と、ふと弱気になる場面の落差が、この本の要です。声の大きさをはっきり変えて読むと、子どもは気持ちの変化に気づきます。
この本は「おれたち、ともだち!」シリーズの第1作で、続編が14巻まで出ています。キツネとオオカミの関係が巻を追うごとに変わっていくので、気に入ったらシリーズでどうぞ。
『きみなんかだいきらいさ』(ジャニス・メイ・ユードリー 文/モーリス・センダック 絵/こだまともこ 訳/冨山房)
内容
いつもなかよしのジェームズと、今日はけんか。「きみなんかだいきらいさ」と言ってやるんだ、と心に決めて歩いていくのに、顔を見たら……。けんかと仲直りの気持ちの揺れを、子どものリアルな心理で描いた絵本です。
感情語彙に効く理由
「怒っているのに、気になってしまう」という感情の複雑さが、説明なしに伝わってきます。読んだ後に「あなたも友だちとけんかしたとき、こんな気持ちになったことある?」と問いかけると、子どもから意外な本音が出てきやすい一冊です。
けんかのあと、大人はつい「謝りなさい」と言ってしまいますが、子どもの中では謝りたい気持ちと、まだ許せない気持ちが同時に存在しています。この本は、その両方があっていいことを教えてくれます。
こんなときにおすすめ/友だちとけんかして帰ってきた日の夜に。
読み方のワンポイント/その日のけんかと結びつけて説教にしないこと。「今日のあなたと同じだね」と言った瞬間に、この本は説教の道具になります。何も言わずに読むだけで届きます。
『ふたりはともだち』(アーノルド・ローベル 作/三木卓 訳/文化出版局)
内容
がまくんとかえるくん、仲良しのふたりの日常が、短い5つのお話で描かれています。かえるくんからの手紙を今か今かと待ちわびるがまくん、なくしたボタンを一緒に探し回るかえるくん——ほんのりとしたユーモアの中に、「相手を思う気持ち」が織り込まれています。
感情語彙に効く理由
「待っている時間のドキドキ」「友だちを喜ばせたくてがんばる気持ち」など、大きな起伏のないさりげない感情が言葉で表現されているため、「気持ちには、こういう小さなものもある」と気づくきっかけになります。「お手紙」は小学2年生の国語教科書でもおなじみです。
1話が短いので、1日1話ずつ読めるのも助かるところ。忙しい日でも5分で終わります。読み聞かせから一人読みへの橋渡しにもぴったりで、そのうち子どもが自分でページを開くようになります。
こんなときにおすすめ/読み聞かせの時間が短くしか取れない時期。一人読みに移りかけているころ。
読み方のワンポイント/がまくんとかえるくんの声を無理に演じ分けなくて大丈夫です。淡々と読むほうが、このユーモアは効きます。
『あのときすきになったよ』(薫くみこ 作・飯野和好 絵/教育画劇)
内容
1年生の「わたし」の後ろの席には、おもらしをよくする「きくちさん」がいます。みんなから「しっこさん」と呼ばれていて、わたしもなんとなく好きではありませんでした。でも、小さな出来事をいくつか一緒に乗り越えるうちに、「しっこさん」の心がだんだん見えてきて……。
感情語彙に効く理由
「なんとなく苦手」という、名前をつけにくい気持ちが「すき」に変わっていく過程が丁寧に描かれています。劇的な事件ではなく、何気ない日常が気持ちを変えていく——そのことを、子ども自身の友だち関係と重ねながら味わえます。NHK Eテレ「おはなしのくに」でも朗読された一冊です。
7冊の中で、いちばん子どもの現実に近いのがこの本です。クラスに一人はいる「なんとなく避けられている子」の内側が見える。読んだあと、しばらく黙り込む子が多い一冊でもあります。
こんなときにおすすめ/中学年以降、クラスの人間関係が気になり始めたころ。
読み方のワンポイント/読み終わったあと、感想を聞かないでください。この本は、黙っている時間そのものが読後感です。
7冊の使い分け早見表
| 書名 | 目安の学年 | 育つ気持ち |
|---|---|---|
| ともだちほしいな おおかみくん | 低学年〜 | 誘いたいのに怖い/期待 |
| はじめてのおつかい | 低学年〜 | 緊張/やりとげた誇らしさ |
| わたしとあそんで | 低学年〜 | さびしさ/待つ/相手の都合 |
| ともだちや | 中学年〜 | さびしさ/つながりたい気持ち |
| きみなんかだいきらいさ | 低学年〜中学年 | 怒りと未練が同時にあること |
| ふたりはともだち | 低学年〜中学年 | 待つドキドキ/相手を思う気持ち |
| あのときすきになったよ | 中学年〜 | なんとなく苦手/見方が変わる |
全部そろえる必要はありません。まずは今のお子さんの状況にいちばん近い1冊から。図書館にもたいてい置いてあります。
本選びそのものに迷ったときは、小学生の語彙力を伸ばす本おすすめ12冊も参考にしてみてください。
自分で読むのにおすすめの児童書5冊【中学年〜高学年】
ここからは、一人読みの時期にぴったりの、登場人物の気持ちをじっくり味わえる児童書を、読みやすい順に紹介します。選び方は絵本と同じで、教訓を語らず、立場のちがう人の気持ちが見える物語を選びました。
「友だちってどういうもの?」「あのとき、どうすればよかった?」——子ども自身がうまくことばにできない問いを、物語がかわりに語ってくれます。
『車のいろは空のいろ 白いぼうし』(あまんきみこ 作・北田卓史 絵/ポプラ社)
内容
空色のタクシーの運転手・松井さんのところには、ちょっと不思議なお客さんがやってきます。ぼうしの中のちょうを逃がしてしまい、かわりに夏みかんをそっと入れておく表題作「白いぼうし」をはじめ、心あたたまる短いお話が続く連作集。1968年の刊行以来、半世紀以上読みつがれてきたロングセラーです。
共感力に効く理由
松井さんは、出会ったお客さんの事情や気持ちをそっと想像して、押しつけない優しさで応えます。「相手の気持ちを想像して行動するって、こういうことか」が物語ごとに感じられる、お手本のような主人公です。一話が短いので一人読みの入り口にもぴったり。「白いぼうし」は小学4年生の国語教科書でもおなじみです。
こんなときにおすすめ/一人読みを始めたばかりで、長い本はまだ疲れてしまう子に。
『ルドルフとイッパイアッテナ』(斉藤洋 作・杉浦範茂 絵/講談社)
内容
飼い猫のルドルフは、ひょんなことから長距離トラックに乗り込んでしまい、はるばる東京へ。そこで出会ったのは、名前を聞くと「いっぱいあってな」と答えるボス猫・イッパイアッテナでした。強面なのに字が読めて教養のあるこの猫との、ノラ猫暮らしが始まります。講談社児童文学新人賞に入選し、映画にもなった人気シリーズの第1作です。
共感力に効く理由
こわそうに見えたイッパイアッテナの、意外な優しさや背負ってきた事情が、物語が進むにつれて見えてきます。「見た目や第一印象と、本当の姿はちがうかもしれない」という体験は、友だちへの見方を広げてくれます。ルドルフが自分の言葉や行動を悔やむ場面もあり、「相手を知ること」と「自分を振り返ること」の両方を、笑いながら味わえる一冊です。
こんなときにおすすめ/第一印象で「あの子は苦手」と決めてしまいがちな子に。動物の物語が好きな子にも。
『かあちゃん取扱説明書』(いとうみく 作・佐藤真紀子 絵/童心社)
内容
いつもかあちゃんに怒られてばかりの哲哉は、とうちゃんのひとことをヒントに、電化製品の説明書のような「かあちゃん取扱説明書」を書くことにします。「ほめるときげんがよくなる」——攻略法どおりにうまくいくかと思いきや、書けば書くほど、かあちゃんの本当の気持ちが見えてきて……。2014年の青少年読書感想文全国コンクール課題図書(中学年)です。
共感力に効く理由
いちばん身近な「かあちゃん」の気持ちを、笑いながら想像できる一冊です。「相手を思いどおりに動かそう」が「相手にも気持ちがある」に変わっていく過程は、まさに共感力が育つ道すじそのもの。読んだあと、「お母さんの取扱説明書を書くとしたら?」なんて会話も生まれやすい本です。
こんなときにおすすめ/親子の言い合いが増えてきたころに。
『百まいのドレス』(エレナー・エスティス 作・ルイス・スロボドキン 絵/石井桃子 訳/岩波書店)
内容
いつも同じ色あせた服を着ているワンダは、「あたし、ドレスを百まい持ってるの」と言ったことから、クラスの女の子たちに毎日からかわれるようになります。やがてワンダは転校していき、残された少女マデラインの心には、「わたしはなぜ、止めることができなかったんだろう」という思いが残ります。
共感力に効く理由
からかわれた側だけでなく、「からかった側」「黙って見ていた側」の気持ちまで丁寧に描かれた、めずらしい物語です。「言えなかった」「見ているだけだった」という後悔を物語の中で安全に体験しておくことは、現実で同じ場面に出会ったとき、一歩踏み出す力になります。いじめや傍観という難しいテーマを、親子で話すきっかけにもなる一冊です。
こんなときにおすすめ/クラスでのからかいや仲間はずれが気になり始めたころに。
『ワンダー』(R・J・パラシオ 作/中井はるの 訳/ほるぷ出版)
内容
生まれつき顔立ちがみんなとちがうオーガストは、10歳にして初めて学校に通うことになります。じろじろ見られ、避けられながらも、少しずつ変わっていく日々——その日々が、オーガスト本人だけでなく、姉や同級生など、まわりの人たちの視点からも語られていきます。世界的ベストセラーで映画化もされ、2016年の青少年読書感想文全国コンクール課題図書(高学年)にもなりました。
共感力に効く理由
章ごとに語り手が替わる構成そのものが、「同じ出来事でも、立場がちがえば見え方も気持ちもちがう」ことの体験になります。これはまさに共感力の核心です。少し長い本ですが、高学年の読む力ならきっと大丈夫。読み終えたあと、「親切ってなんだろう」と家族で話したくなる一冊です。
こんなときにおすすめ/長めの本も読めるようになってきた高学年に。
5冊の使い分け早見表
| 書名 | 目安の学年 | 育つ気持ち |
|---|---|---|
| 車のいろは空のいろ 白いぼうし | 中学年〜 | 相手の事情をそっと想像する |
| ルドルフとイッパイアッテナ | 中学年〜 | 第一印象と本当の姿のちがい |
| かあちゃん取扱説明書 | 中学年〜 | 身近な人にも気持ちがある |
| 百まいのドレス | 中学年〜高学年 | 見ているだけだった後悔 |
| ワンダー | 高学年〜 | 立場がちがえば見え方もちがう |
絵本の7冊と同じく、全部そろえる必要はありません。高学年で「絵本はもういい」と言うお子さんには、この5冊から入るのもひとつの方法です。
本を読んでいない時間にできること
ひとつ、大切なことをお伝えしておきます。本を読んだだけで、共感力が自然に身につくわけではありません。
本は共感力の種をまきます。その種を育てるのが、ふだんの会話です。本で出会った気持ちが、家族や友だちとのやりとりの中でもう一度ことばになったとき、はじめて自分のものになっていきます。
読み聞かせや読書は強力ですが、1日のうちの限られた時間です。残りの時間にも、気持ちのことばを渡す機会はたくさんあります。
いちばん簡単なのは、親が自分の気持ちを実況することです。「今日ね、お母さん電車に乗り遅れてがっかりしちゃった」「これ届いたとき、うきうきした」。子どもに向けた教育ではなく、ただの報告として言うのがコツです。
学校での出来事を聞き出したいときは、聞き方にコツがあります。「今日どうだった?」に「覚えてない」と返ってくるご家庭は、「今日どうだった?」に「覚えてない」と返す子が話し出す聞き方4つのコツをどうぞ。
そして、そもそも読み聞かせを続けること自体がしんどい時期もあります。読み聞かせが面倒…疲れたあなたへと読み聞かせは1日何分すればいい?「10分で十分」な理由には、力を抜いて続けるための考え方をまとめました。続かない日があっても、共感力はそこで消えたりしません。
それから、読み聞かせは子どものためだけのものではありません。読んでいる側にも起きていることがあります。読み聞かせは「してあげるもの」じゃない。読む側が得られる効果もあわせてどうぞ。
よくあるご質問
まとめ|感情のことばを持つ子は、人とつながれる

共感力は、「やさしい性格」だから持てるものではありません。感情を言葉にする経験を重ねることで、少しずつ育っていくものです。
本は、その経験を毎日、自然な形で積み重ねられる場所です。読み聞かせでも、自分で読む読書でも。
- 本の中に「感情のお手本」がある
- 安全な場所で感情を体験できる
- 親子で気持ちを語る時間が生まれる
- 「困らせる側」の気持ちまで見える
- 「自分とはちがう感じ方」に出会える
特別なトレーニングも、高価な教材も必要ありません。
やることは、読む・黙る・ときどき自分の気持ちをひとこと言う。それだけです。問いかけも、まとめも、教訓もいりません。
感情をことばにできる子は、自分の気持ちを整理できます。そして、人の気持ちにも気づけます。
ことばは、人と人をつなぐ橋です。その橋をしっかり育てていきましょう。
一人で読むようになっても、読み聞かせの時間を少し残しておくと、共感力は両方の道から育っていきます。読み聞かせから一人読みへの移り方は、小学生が「自分から本を読む子」になる関わり方にまとめています。
また、本を読んでいないときにも、気持ちの言葉は渡せます。「嫌だ」しか言わないお子さんへの声かけや、そのまま使える感情語彙のリストは感情語彙を育てる親の声かけの記事にまとめました。
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