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「どうして悪いことをしちゃいけないの?」
子どもにそう聞かれて、言葉に詰まった経験はありませんか。
「決まりだから」「怒られるから」——とっさに出るのはこのあたりですが、口にしたあとで、なんだか足りない気がしてしまう。かといって、うまい説明も思いつかない。そんな居心地の悪さを感じたことのある方は、多いと思います。
学校司書として毎日たくさんの子を見ていて思うのは、「してはいけないこと」を知らない子は、ほとんどいないということです。嘘はいけない、人のものを取ってはいけない、仲間はずれはよくない。低学年でもきちんと答えられます。それでも、けんかは起きるし、意地悪も起きます。
つまり道徳感というのは、知識として持っているだけでは働かないということです。必要なのは「相手がどう感じるかを想像して、そこから自分で動ける心」のほう。そしてこの部分は、教えて覚えさせることがとても難しい。
その難しいところを、説教でも授業でもなく、いちばん自然に育ててくれるのが毎日の読み聞かせです。この記事では、絵本が子どもの心に善悪の感覚を育てるしくみと、読んだあとの関わり方、そして道徳感が育ちやすい絵本を6冊ご紹介します。

こんな方におすすめの記事
- 「どうして悪いことをしちゃいけないの?」にうまく答えられなかった方
- 言って聞かせても子どもの心に届いていない気がして、もどかしい方
- 叱ってばかりの自分に、少し疲れてしまっている方
- 子どもに思いやりのある人になってほしいけれど、何をすればいいかわからない方
- 「道徳の絵本」と検索して、説教くさい本ばかりが出てきてがっかりした方
この記事は小学校低学年〜中学年(1〜4年生)のお子さんをお持ちの方に向けて書いています。ただし、紹介する6冊のうち後半の3冊は高学年になってからのほうが深く読める本なので、5・6年生のお子さんにも十分使えます。
学年別・道徳感が育つ絵本12冊 早見表
ここからは、実際に読んでほしい12冊を学年別に紹介します。どれも「教訓を語らない」本ばかりを選びました。教えるのではなく、子どもが自分で感じ取る余白のある絵本です。
「道徳の内容項目」は、小学校の「特別の教科 道徳」で使われている分類です。学校でどの時間に扱われる内容なのかがわかるので、家庭での読み聞かせと授業がつながりやすくなります。
| 学年 | 書名 | テーマ | 道徳の内容項目 |
|---|---|---|---|
| 低学年 (1〜2年) | おまえうまそうだな | 思いやり・親子の愛情 | D 生命の尊さ |
| あのときすきになったよ | 第一印象で人を決めない | B 友情、信頼 | |
| くれよんのくろくん | それぞれに出番がある | A 個性の伸長 | |
| おこだでませんように | 叱られる子の内側 | A 正直、誠実 | |
| 中学年 (3〜4年) | あかいセミ | 盗み・正直に言う勇気 | A 善悪の判断 |
| モチモチの木 | 勇気とはなにか | A 希望と勇気 | |
| 花さき山 | 我慢して人を思いやる | B 親切、思いやり | |
| いつもちこくのおとこのこ | 信じる/信じてもらえない | C 公正、公平 | |
| 高学年 (5〜6年) | わすれられないおくりもの | 死・感謝・遺すもの | D 生命の尊さ |
| 100万回生きたねこ | 愛することと生きること | D よりよく生きる喜び | |
| くまとやまねこ | 悲しみを急がない | D 生命の尊さ | |
| ぼくは川のように話す | 自分の言葉を持つ | A 個性の伸長 |
学年はあくまで目安です。低学年向けの本を高学年が読んでも、まったく違う感想が出てきます。「もう小さい子向けだから」と外さずに、気になったものから手に取ってみてください。
低学年(1〜2年生)におすすめの道徳絵本4冊
この時期は、善悪を説明されても入っていきません。「かわいそう」「うれしい」と心が動いた経験そのものが、あとで道徳の土台になります。だから低学年では、感情がはっきり動く物語を選びます。
1. 『おまえうまそうだな』
作・絵:宮西達也/ポプラ社
目安の学年:小学1〜2年生(年長から可)/読み聞かせ時間:約7分/道徳の内容項目:D 生命の尊さ、B 親切、思いやり
どんな絵本? 肉食恐竜のティラノサウルスが、本来なら食べてしまうはずの草食恐竜の子どもを、我が子として育てていく物語です。「うまそう」と名づけられた子は、自分を父だと信じてなつき、やがて別れの日がやってきます。
読み聞かせでこう届きます この本は、道徳を一言も語りません。ただ「食べるはずだったのに、食べなかった」という一点だけで、思いやりとは何かを見せてしまいます。読み終わったあとに「どうして食べなかったんだろうね」と聞くだけで、自然に対話が始まります。低学年でも泣く子がいる、力のある一冊です。
こんなお子さんに 恐竜が好きな子には迷わずこれを。「強い=えらい」と思いはじめた時期の子にもよく効きます。強い者が力を使わずにいる姿は、説明されるより物語で見たほうが早く伝わります。
2. 『あのときすきになったよ』
作:薫くみこ/絵:飯野和好/教育画劇
目安の学年:小学1〜3年生/読み聞かせ時間:約8分/道徳の内容項目:B 友情、信頼、B 親切、思いやり
どんな絵本? おもらしをするので「しっこさん」とあだ名をつけられ、いつも怒った顔をしているクラスメイト。最初はちっとも好きになれなかった「わたし」が、一緒に過ごすうちに少しずつ心を近づけていきます。
読み聞かせでこう届きます 「見た目で人を決めてはいけません」と言われても、子どもの実感にはなりません。この本は主人公が嫌っていた側から描かれているので、「決めつけていた自分」を子どもが安全に体験できます。読んだあとは「なんで、すきになったんだろうね?」の一言で十分です。
こんなお子さんに 入学して人間関係が広がった時期にぴったりです。「あの子きらい」という言葉が出はじめたら、叱る前にこの本を。嫌う気持ちを否定せずに、その先を見せてくれるのがこの本の良さです。
3. 『くれよんのくろくん』
作・絵:なかやみわ/童心社
目安の学年:年中〜小学2年生/読み聞かせ時間:約7分/道徳の内容項目:A 個性の伸長、C よりよい学校生活、集団生活の充実
どんな絵本? 新しいクレヨンたちが、まっ白な画用紙に思い思いの絵を描いていきます。ところが、くろくんだけは仲間に入れてもらえません。「くろはつよすぎるから」と断られてしまうのです。しょんぼりしていたくろくんに、シャープペンのお兄さんがある提案をします。
読み聞かせでこう届きます この本のすばらしさは、くろくんが「がまんして待っていたから報われた」話になっていないところです。くろくんにしかできない仕事が、ちゃんとあった。それだけです。だから「みんなちがってみんないい」という言葉より、ずっと具体的に届きます。最後の場面で子どもが声をあげたら、そこで説明はいりません。
こんなお子さんに 自分だけ違う、自分だけできない、と感じている子に。仲間はずれをしてしまう側の子にも効きます。断ったクレヨンたちが悪者として描かれていないので、「自分のことだ」と身構えずに読めます。
4. 『おこだでませんように』
作:くすのきしげのり/絵:石井聖岳/小学館
目安の学年:小学1〜3年生/読み聞かせ時間:約8分/道徳の内容項目:A 正直、誠実、B 親切、思いやり
どんな絵本? 家では母に、学校では先生に、朝から晩まで怒られてばかりの男の子。本人にはちゃんと理由があるのに、誰も最後まで聞いてくれません。七夕の日、覚えたてのひらがなで短冊に書いた願いごとが「おこだでませんように」でした。それを読んだ先生の反応が、この本のすべてです。
読み聞かせでこう届きます この本は、子どもより先に読んでいる大人のほうが動揺します。叱られている子の内側がここまで丁寧に描かれた本は多くありません。子どもにとっては「わかってもらえた」という体験になり、大人にとっては「聞いていなかった」という発見になります。読んだあと、感想を求める必要はありません。黙って隣にいるだけで十分に伝わります。
こんなお子さんに 叱ることが増えてしまった時期に、親子で読んでほしい一冊です。この記事の後半「叱ってしまった日の夜にこそ、絵本を」でも触れていますが、謝るかわりに読む本として、これ以上のものはなかなかありません。
中学年(3〜4年生)におすすめの道徳絵本4冊
中学年になると、「わかっているのにできなかった」という経験が積み重なってきます。正しさを知っているだけでは足りないと、子ども自身がうすうす気づく時期です。ここでは、迷いや後ろめたさが正面から描かれた本を選びました。
5. 『あかいセミ』
作・絵:福田岩緒/文研出版
目安の学年:小学2〜4年生/読み聞かせ時間:約9分/道徳の内容項目:A 正直、誠実、A 善悪の判断、自律、自由と責任
どんな絵本? 文具店で赤い消しゴムを盗んでしまった男の子の話です。盗んだあとから心がざわつき、妹との約束も守れなくなり、夜も眠れなくなっていく様子が、こわいほどリアルに描かれます。最後に母親へ打ち明けると、母は叱りつけるのではなく「ちゃんと、あやまろうね」と抱きしめます。
読み聞かせでこう届きます この本の主役は、盗んだ行為ではなく盗んだあとの「心のざわざわ」です。それを追体験することで、正直でいることがなぜ自分のためになるのかを、子どもが内側から感じ取れます。最後の母親の反応が、この本をただの教訓話にしていないところも大きな魅力です。読んだあとに「言えてよかったね」とだけ言ってあげてください。
こんなお子さんに ものを隠す、嘘が増えた、と感じたときに。ただし「あなたのことだよ」と匂わせないでください。気づかせようとした瞬間に、この本は説教になってしまいます。何も言わずに読むほうが、はるかによく届きます。
6. 『モチモチの木』
作:斎藤隆介/絵:滝平二郎/岩崎書店
目安の学年:小学3〜5年生/読み聞かせ時間:約10分/道徳の内容項目:A 希望と勇気、努力と強い意志、C 家族愛、家庭生活の充実
どんな絵本? 夜中に一人で外に出ることもできない臆病な豆太が、じさまが倒れた夜、たった一人で真っ暗な山道を医者を呼びに走ります。切り絵の力強い絵と、語りかけるような文章が忘れられない一冊です。国語の教科書で出会う方も多いと思います。
読み聞かせでこう届きます この本のすごさは、勇気を出したあとの豆太がまったく強い子に変わらないところにあります。翌日にはまた、じさまを起こしています。だからこそ「勇気って、こわくなくなることじゃないんだ」が伝わります。読み終わったら「豆太はこわくなかったのかな?」と聞いてみてください。中学年以上なら、深い答えが返ってきます。
こんなお子さんに 怖がり、慎重、引っ込み思案——そう言われがちなお子さんに読んでほしい本です。こわいままで動けた子の話なので、「勇気を出しなさい」と言われ続けてきた子ほど救われます。
7. 『花さき山』
作:斎藤隆介/絵:滝平二郎/岩崎書店
目安の学年:小学3〜4年生/読み聞かせ時間:約10分/道徳の内容項目:B 親切、思いやり、D 感動、畏敬の念
どんな絵本? 山菜をとりに山へ入ったあやが、山ンバに出会います。山ンバは、一面に咲く花を指してこう言います。この花は、ふもとの村の人間が自分をおさえて優しいことをひとつすると、ひとつ咲くのだ、と。あやが妹に譲ってがまんしたあの日にも、この山には花が咲いていました。
読み聞かせでこう届きます 『モチモチの木』と同じ、斎藤隆介と滝平二郎のコンビによる一冊です。誰にも見られていない優しさが、どこかで花になっている——この一点だけで成り立っている物語で、説明はいっさいありません。小学4年生の道徳教科書に広く採用されているので、学校で出会う前に家庭で読んでおくと、授業での受け取り方が変わります。読んだあとは「あやの花は、どんな色だったと思う?」と聞いてみてください。
こんなお子さんに がんばりを見てもらえない、ほめられない、と感じている子に。とくに下の子に譲る立場が続いている上のお子さんには、深く刺さります。『モチモチの木』を気に入った子への次の一冊としても自然です。
8. 『いつもちこくのおとこのこ』
作・絵:ジョン・バーニンガム/訳:谷川俊太郎/あかね書房
目安の学年:小学3〜6年生/読み聞かせ時間:約8分/道徳の内容項目:B 相互理解、寛容、C 公正、公平、社会正義
どんな絵本? 学校に遅刻してばかりのジョンは、そのたびに「ワニに鞄を食べられた」「ライオンに手袋を取られた」と説明しますが、先生はまったく信じてくれません。そして最後に、思いもよらない場面がやってきます。
読み聞かせでこう届きます この本は、道徳の絵本としてはかなり異色です。正しさを持っているはずの大人の側が、間違っているからです。信じてもらえない悔しさを味わったあとで、子どもは自然と「人の話をちゃんと聞くとはどういうことか」を考えはじめます。読み終わったら「先生は正しかったと思う?」と聞いてみてください。大人が絶対ではないと知ることも、道徳感のうちです。
こんなお子さんに 「どうせ言っても信じてもらえない」と口をつぐむようになった子に。読んだあと、大人の側が「お母さんも、聞いてなかったことあるかも」と言えるかどうかで、この本の価値は何倍にもなります。
高学年(5〜6年生)におすすめの道徳絵本4冊
高学年は、絵本を卒業したと思われがちな時期です。けれど短い言葉で深いところに届く絵本は、抽象的に考えられるようになった高学年にこそ効きます。ここでは、答えが用意されていない4冊を選びました。
読み聞かせでなくても構いません。机に置いておくだけで、子どもは勝手に開きます。
9. 『わすれられないおくりもの』
作・絵:スーザン・バーレイ/訳:小川仁央/評論社
目安の学年:小学3〜6年生/読み聞かせ時間:約10分/道徳の内容項目:D 生命の尊さ、B 感謝
どんな絵本? 森のみんなから慕われていたアナグマが亡くなり、残された動物たちが悲しみに沈みます。けれど季節がめぐるうちに、それぞれがアナグマから教わったことを思い出しはじめる——そんな物語です。
読み聞かせでこう届きます 死をあつかう絵本ですが、こわい本ではありません。「いなくなっても残るものがある」という考え方を、子どもがはじめて手にする一冊になります。身近な人やペットを見送った経験のあるお子さんには、とくにおすすめです。読んだあとに「あなたは、だれに何を教わったかな」と聞くと、思いがけない名前が出てきます。
こんなお子さんに 祖父母との別れが近い、あるいはすでに経験したお子さんに。悲しみの最中ではなく、少し時間が経ってからのほうがよく届きます。
10. 『100万回生きたねこ』
作・絵:佐野洋子/講談社
目安の学年:小学5〜6年生(低学年でも読めますが、届き方が変わります)/読み聞かせ時間:約10分/道徳の内容項目:D よりよく生きる喜び、D 生命の尊さ
どんな絵本? 100万回死んで、100万回生きかえったねこの話です。王さまのねこ、船のりのねこ、どろぼうのねこ——飼い主が死ぬたびにみんな泣きましたが、ねこは一度も泣きませんでした。やがてのらねこになったねこは、はじめて自分から誰かを好きになります。
読み聞かせでこう届きます 有名すぎる一冊ですが、高学年になってから読むとまったく違う本になります。低学年では「かわいそう」で終わるところが、高学年では「なぜ最後は生きかえらなかったのか」に届くからです。ここには正解がありません。だからこそ読んだあと、大人が答えを言ってしまわないことがこの本ではいちばん大事です。「どう思った?」とだけ聞いて、あとは黙って待ってください。
こんなお子さんに 「生きる意味」のような大きな問いを口にしはじめた子に。答えを与えるのではなく、問いを持ったまま考え続けていいと伝えられます。小さいころに読んだ子ほど、読み直す価値があります。
11. 『くまとやまねこ』
文:湯本香樹実/絵:酒井駒子/河出書房新社
目安の学年:小学4〜6年生/読み聞かせ時間:約10分/道徳の内容項目:D 生命の尊さ、B 友情、信頼
どんな絵本? くまのいちばんの友だちだった小鳥が、ある朝、動かなくなっていました。くまは小鳥を小さな箱に入れ、どこへ行くにも持ち歩きます。まわりの動物たちは「もう忘れなさい」と言いますが、くまにはできません。そんなくまが、やまねこと出会います。
読み聞かせでこう届きます この本がほかの「死をあつかう絵本」と違うのは、悲しんでいる時間そのものを肯定しているところです。「早く元気になりなさい」と言う側が、はっきりと間違った存在として描かれます。酒井駒子さんの絵は暗い色調ですが、読後感は不思議とあたたかい。立ち直りを急かされた経験のある子ほど、この本に救われます。読んだあと、何も聞かなくて構いません。
こんなお子さんに 大切な存在を失ったばかりのお子さんに。ペットとの別れにも使えます。『わすれられないおくりもの』が「その後」を描くのに対し、この本は「まっただ中」を描きます。順番としては、こちらを先に読むほうが自然です。
12. 『ぼくは川のように話す』
文:ジョーダン・スコット/絵:シドニー・スミス/訳:原田勝/偕成社
目安の学年:小学4〜6年生/読み聞かせ時間:約8分/道徳の内容項目:A 個性の伸長、B 相互理解、寛容
どんな絵本? 吃音のある少年の話です。朝、目が覚めた時点で、今日は言葉が出ない日だとわかる。教室でみんなの前に立たされ、一言も言えないまま終わった日の午後、お父さんが川へ連れて行ってくれます。そして少年に、忘れられない一言をかけます。カナダの詩人ジョーダン・スコット自身の子ども時代がもとになっています。
読み聞かせでこう届きます この本は「がんばれ」とも「気にするな」とも言いません。言葉が出ない自分を、直すものではなく持ちものとして受け取り直す——その転換だけを描きます。シドニー・スミスの絵が、水の質感で少年の内側を見せてくれます。違いのある人をどう見るかではなく、違いのある側から世界がどう見えるかを体験できる数少ない絵本です。読んだあとは「川って、どんな話し方なんだろうね」と聞いてみてください。
こんなお子さんに どもる、うまく話せない、人前で声が出ない——そうした経験のあるお子さんに。そうでない子にも、ぜひ読んでほしい一冊です。「みんなちがっていい」を言葉で教える百倍の効果があります。
道徳感が育ちやすい絵本の選び方

すべての絵本が道徳感を育てるわけではありません。とくに「教訓」が前面に出ている本は、子どもがすぐ見抜いて心を閉じます。読み聞かせの途中で「もういい」と言われる本は、たいていこのタイプです。
選ぶときは、次の4つを目安にしてみてください。
| 見るポイント | なぜ効くか |
|---|---|
| 登場人物が「迷う」場面がある | 迷いを一緒にたどることで、考える力が動く |
| 「相手の気持ち」が描かれている | 傷つけた側だけでなく、傷ついた側の内側が見える |
| 行動に「結果」がついてくる | なぜいけないのかを、理屈でなく実感でつかめる |
| 大人が絶対的な正解を言わない | 子どもが自分で結論を出す余白が残る |
登場人物が「迷う」場面がある
正しいことが最初から明らかな話より、主人公が迷って、考えて、選ぶ過程が描かれている絵本のほうが、子どもの思考は深く動きます。読者は、主人公が迷っている時間のあいだだけ、一緒に考えることができるからです。
「相手の気持ち」が丁寧に描かれている
主人公の気持ちだけでなく、傷ついた側・喜んだ側の内面まで描かれている絵本は、共感力をよく育てます。子どもがふだんいちばん想像しにくいのが、「自分がしたことを、された側がどう感じたか」だからです。
ハッピーエンドだけではなく「代償」がある
失敗しても何も起きない話、最後に全部うまくいく話よりも、行動の結果がきちんと描かれている絵本のほうが、「なぜそうしてはいけないのか」を体で感じさせてくれます。後悔している主人公を見ることは、子どもにとって痛みのない予習になります。
大人が「正解」を言わない
物語の最後に、大人が出てきて教訓をまとめてしまう本があります。よくできた本でも、この一場面があるだけで子どもの考える時間が終わってしまいます。読み終わったあとに「……で、どうなんだろう」と余韻が残る本を選ぶと、そのあとの会話がまるで違ってきます。
「道徳を教える」のではなく「道徳を感じさせる」
正しさを知っていることと、動けることは別
道徳教育というと、「嘘はいけません」「友だちは大切に」と言葉で教えることをイメージしがちです。学校でもそういう時間はありますし、家庭でも同じように言い聞かせます。
でも、図書室で子どもたちを見ていると、正しい答えを言える子と、その場面で正しくふるまえる子は、必ずしも同じではないと感じます。「本は大切にしようね」と全員が言える一方で、返却された本のページが折れていることは日常的に起こります。悪気があるわけではありません。ただ、そのとき「本が痛む」ということが、その子の中で実感になっていないだけです。
逆に、一度でも自分の大事な本を汚された経験がある子は、言われなくてもていねいに扱います。頭でわかったことより、心が動いた経験のほうが、行動を変える力が強いのです。
絵本は「疑似的な経験」をさせてくれる

とはいえ、心が動く経験を家庭で用意するのは大変です。物を盗まれる経験も、仲間はずれにされる経験も、させたくてさせられるものではありません。
ここで絵本の出番になります。物語の中でなら、子どもは安全なまま、いくらでも心を動かすことができます。
主人公が嘘をついて友だちを傷つけてしまったとき、子どもは物語の中で一緒に後悔します。主人公がためらいながら謝れたとき、胸のあたりがすっと軽くなるのを一緒に味わいます。この「物語の中で感じた体験」が、現実の場面での判断を静かに変えていきます。
| 教える道徳 | 感じる道徳 | |
|---|---|---|
| 入り口 | 親や先生の言葉 | 主人公の気持ち |
| 子どもの姿勢 | 受け身・ときに反発 | 前のめり・自分ごと |
| 残るもの | 「言われたこと」 | 「感じたこと」 |
| 使える場面 | 言われた場面と同じとき | 初めての場面でも応用できる |
もちろん、教えることが悪いわけではありません。危ないことや、人を傷つけることは、はっきり言葉で止める必要があります。ただ、言葉で教えるだけだと「言われた場面」でしか使えないのが弱点です。感じて育った道徳感は、初めて出会う場面でも働いてくれます。
この「感じる」力の中身については、共感力の記事でくわしく書いています。

絵本が道徳感を育てる3つのしくみ
読み聞かせのあいだ、子どもの中では大きく3つのことが起きています。

① 主人公と「感情を共有する」体験
読み聞かせ中、子どもは主人公に自分を重ねます。主人公がうれしいときは顔がほころび、悲しい場面ではページをのぞきこむ姿勢が止まる。読んでいる側からは、その変化がよく見えます。
この「感情の共鳴」こそが共感力の土台です。そして共感力は、道徳感のいちばん深いところにある根っこにあたります。「相手がどう感じるか」を想像できてはじめて、「だから傷つけてはいけない」という気持ちが自分の中から生まれるからです。
この順番は逆にできません。共感が育っていない状態でルールだけ増やしても、「見つからなければいい」に着地してしまう——学校でも家庭でも、ここでつまずくことが多いように思います。
気持ちを表す言葉そのものを増やしていく方法は、こちらにまとめました。

② 「善悪」を押しつけではなく「物語の結果」として学ぶ
「嘘はいけない」と親から言われると、子どもはしばしば反発します。中学年くらいになると「そっちだって」と返ってくることもあります。正しさを人から渡されると、まず受け取るかどうかの勝負になってしまうのです。
絵本では、これが起こりません。物語の中で嘘をついた子が友だちを失っていく様子を見て、子どもは自分で「ああ、だから嘘はよくないんだ」とたどり着きます。誰にも言われていないので、反発する相手がいません。
押しつけられた価値観ではなく、自分で見つけた気づき。この違いが、そのまま心に根づくかどうかの違いになります。
③ 「もし自分だったら?」という思考の練習
読み聞かせのあとに、こんな一言を添えてみてください。
「○○ちゃんだったら、どうする?」

この問いかけひとつで、子どもの内側のスイッチが切り替わります。「ぼくなら謝る」「でも恥ずかしいかも」「でも友だちが泣いてるし……」——こうやって、答えの出ない行ったり来たりが始まります。
この行ったり来たりこそが目的です。迷う練習を安全な場所でしておくと、現実の場面で迷ったときに固まらずにすみます。大事なのは結論ではなく、迷えたという事実のほうです。
「もし自分だったら」を思い描く力は、そのまま想像力です。この力の育て方はこちらに書いています。

「ものさしは一つじゃない」と知ることも道徳のうち
道徳というと「正解を身につけること」と思われがちですが、もう一つ大事な面があります。立場が変われば正しさも変わる、と知っていることです。
図書室でも、こういう場面はよく起こります。決まりを守らない子に強く注意する子がいて、注意された側は「そんな言い方しなくても」と傷つく。どちらも自分なりに正しいことをしているのに、ぶつかってしまう。
このとき必要なのは、どちらが正しいかを大人が決めることではなく、「相手にも相手の理由がある」と想像できる余白のほうです。この余白は、いろいろな立場の主人公の物語を読んできた子ほど広くなります。
だから絵本を選ぶときは、「いい子が報われる話」ばかりを集めなくて大丈夫です。むしろ、悪いことをしてしまった子の側から描かれた物語のほうが、道徳感を深く耕します。この記事で紹介する6冊にも、そういう本を入れてあります。

年齢別・道徳感が育つ関わり方
同じ絵本でも、学年によって届く場所が変わります。声のかけ方も、それに合わせて変えるとよく効きます。
| 学年 | 育てたいこと | 読んだあとの一言 |
|---|---|---|
| 低学年(1〜2年) | 気持ちを言葉にする | 「○○は、どんな気持ちだったと思う?」 |
| 中学年(3〜4年) | 理由を考える | 「もし自分がこの子だったら、どうした?」 |
| 高学年(5〜6年) | 正しさの複雑さを知る | 「これ、どっちが正しいと思う?」 |
小学校低学年(1〜2年生):「感情」を言葉にする
善悪の理屈よりも、「うれしい・悲しい・こわい・くやしい」を言葉にできることが先です。登場人物の表情や気持ちがはっきり描かれた絵本を選びましょう。
この時期は「悪いことをした子=悪い子」と単純に受け取りやすいので、読んだあとに「でも、この子はどんな気持ちだったんだろうね」と一言添えると、見方がぐっと広がります。
小学校中学年(3〜4年生):「なぜ?」を考える
自分と他人は違う、ということがわかってくる時期です。「なぜそれはよくないのか」を一緒に考えられる絵本が効きます。
この学年は友だち関係でいちばん揺れる時期でもあるので、物語の中の対立が自分ごとになりやすいのが特徴です。今日あった出来事とつながって、急に話し出すことがあります。そのときは、ただ聞いてあげてください。
小学校高学年(5〜6年生):「正義の複雑さ」を知る
「正しいことをするのが、いつも簡単とは限らない」という状況が描かれた本が、深い思考を引き出します。
高学年になると読み聞かせを嫌がる子も出てきますが、難しいテーマの絵本は、この年齢でこそ本当の意味が届きます。「ちょっと読んでみて、感想が聞きたい」と、大人の側から相談する形で渡すとうまくいきます。
読み聞かせをいつまで続けるかについては、こちらでくわしく書きました。

読み聞かせ後の「たった一言」で効果が変わる
答えを言わないほうが、深く残る
道徳感を育てるうえでいちばん差が出るのは、実は読んでいるあいだではなく、読み終わったあとの数十秒です。
ここでやりがちなのが、まとめてしまうこと。「○○がいけなかったんだよね」と言った瞬間に、その本は「教訓を教えるための本」に変わってしまいます。親が結論を言うと、子どもは考えるのをやめます。
| やりがちな一言 | 言いかえると |
|---|---|
| 「○○がいけなかったんだよね」 | 「○○は、どう思ってたんだろうね」 |
| 「あなたもこうしちゃダメだよ」 | 「○○ちゃんだったら、どうする?」 |
| 「いいお話だったね」 | 「どこがいちばん心に残った?」 |
| 「ちゃんと聞いてた?」 | (何も言わずに、少し待つ) |
沈黙は、考えている時間

問いかけたあと、返事がないと不安になって、つい言葉を足したくなります。でも子どもが黙っている時間は、たいてい何も考えていない時間ではなく、考えがまとまらない時間です。
10秒くらい待つと、思いがけない言葉が出てくることがあります。それでも出てこなければ、「難しいよね」と言って終わりにして大丈夫です。答えさせることが目的ではなく、考えるきっかけを渡すのが目的だからです。
出てきた答えを、評価しない
「ぼくなら謝らない」——そんな答えが返ってくることもあります。ここで「えっ、それはダメでしょう」と反応すると、次から本音は出てきません。
まずは「そっか、謝らないんだ」と受け取ってから、「どうして?」と聞いてみてください。理由を聞いていくと、「だって謝ったら負けみたいだから」といった、その子なりの理屈が出てきます。その理屈が見えたときが、いちばん深い対話ができるところです。
親の仕事は、正解を教えることではなく、考えるきっかけを渡すこと。道徳の答えを持って帰るのは、子ども自身です。
子どもから話を引き出す聞き方そのものは、こちらの記事にまとめてあります。

日常の出来事と絵本をつなげる
読み聞かせの効果をもう一段引き上げるのが、日常の出来事と絵本をつなげる声かけです。
たとえば、友だちとけんかして帰ってきた日。
「そういえば、この前読んだ○○の本でも似たことがあったね。あのとき、○○はどうしたっけ?」
このひとことで、絵本の世界と現実がつながります。直接説教されるより、物語を経由したほうが、子どもは自分の行動を落ち着いて振り返れます。今の自分を責められていないからです。
| こんな日に | こうつなげる |
|---|---|
| 友だちとけんかした | 「○○も、あのとき困ってたよね」 |
| 嘘をついたことがわかった | 「あの本の子も、言えなくてもやもやしてたね」 |
| 約束を守れなかった | 「約束って、守るの難しいときあるよね」 |
| だれかにやさしくできた | 「今日のあれ、○○みたいだったよ」 |

いちばん下の「できたとき」に使うのを、ぜひ忘れないでください。悪いことをしたときだけ物語を持ち出すと、絵本が説教の道具になってしまいます。いいことをした日にこそ絵本の名前を出すと、子どもの中で物語が味方になります。
気持ちを言葉にするのが苦手なお子さんには、こちらの記事も参考になると思います。

約束やルールをテーマに話し合うときは、こちらもあわせてどうぞ。

叱ってしまった日の夜にこそ、絵本を

ここまで読んで、「うちは今日も怒鳴ってしまった」と思われた方もいるかもしれません。
でも、叱った日の夜に絵本を1冊読むことには、叱ったこと自体を帳消しにする以上の意味があります。「怒られたけれど、嫌われたわけではない」——これが伝わってはじめて、子どもは昼間の注意を受け取り直せるからです。
反対に、怒られたまま一日が終わると、子どもの中に残るのは注意の中身ではなく「嫌われたかもしれない」という不安だけになりがちです。道徳感が育つのは、安心しているときだけです。責められている最中の子どもは、自分を守るのに精一杯で、相手の気持ちまで想像する余裕がありません。
だから、うまく叱れた日も、叱りすぎた日も、やることは同じで大丈夫です。隣に座って、1冊読む。それだけで、その日の関係はいったん元に戻ります。
読み聞かせを続けるのがしんどい日の乗り切り方は、こちらにまとめました。

一人読みに移ってからも、育ち続けます
読み聞かせから一人読みへ移っていくと、「もう読んであげられない」と少しさびしくなります。でも物語の中で心を動かすという体験そのものは、一人読みになってからも変わらず続きます。
違うのは、大人が入る場所です。読み聞かせのときは読んだあとに問いかけていたところを、「その本、どうだった?」と聞く役に回るだけで十分。中身を知らなくても、「へえ、そんな話なんだ」と聞いてもらえるだけで、子どもは自分の考えを言葉にしはじめます。

一人読みのお子さんが、物語を通じて共感力を育てていくしくみは、読書版の記事にまとめています。
よくある質問
まとめ:読み聞かせは「心の道徳の種まき」
道徳感は、一度教えて身につくものではありません。物語の中で何度も感じ、考え、迷うことで、少しずつ心の奥に根を張っていきます。
読み聞かせは、そのための場所としてよくできています。毎晩の10分が、「自分で考えて動ける子」を育てる時間になっています。難しいことは何もありません。子どもの隣に座って、一冊の本を開くだけです。
- 「してはいけないこと」を知っていても、それだけでは動けない
- 絵本は、安全なまま心を動かす経験をさせてくれる
- 共感が先。共感が育たないままルールを増やすと逆効果になる
- 教訓を語らない本、迷いと結果が描かれた本を選ぶ
- 読んだあとは、答えを言わずに問いかけて、10秒待つ
- 出てきた答えは評価しない。理由を聞くと対話が深まる
- 日常とつなげる声かけは、できた日にこそ使う
- 叱ってしまった日の夜こそ、1冊読む
今日読んだ一冊が、いつかお子さんが迷う場面で、そっと背中を押してくれます。
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